わたし好みの新刊   20147

 

『極北の大地に住む』    吉野吉晴著   ほるぷ出版   

 テレビドキュメンタリー「グレートジャーニー」で数々の映像を見せてきた著

者が,子どもたちに語りかける極北の写真集。人間が豊かに生きる知恵とは何

なのか激しく問いかけてくる。冬はマイナス40度にもなりすべてが凍り付く極北

ではどん生活が営まれているのだろうか。極北は,雪と氷以外は何もない場所

と思われがちだが,意外と生き物がたくさん住んでいる。真冬でも動物を見か

けるほど自然の恵みの豊かな所だそうだ。夏には野草も咲きさまざまな動物が

やってくる。そのような極北での人々の生活の様子が豊富な写真で紹介されて

いる。一口に極北といっても,海岸部,内陸部,大河川流域部とでは生活の
様子
が大きく異なる。

まず,海岸地帯。勇壮な鯨漁が展開される。ボート船団を組み,鯨を追い込

み,回転モリという手持ちのモリで仕留める。セイウチ狩りも命に対する畏敬の
念を保ちながらの漁だ。肉は寒冷地ならではの保存食として人々の命をつなぐ。
「人間のために死んでくれた命に敬意をはらって、肉も骨も、少しもむだにし

ません」
と結ぶ。海岸地帯では犬ぞりが欠かせない。
 人々は,人と犬,人と
人との信頼関係で生きている。大河川流域部はなんと
いってもサケが人間や動
物の命をつないでいる。サケがあっての暮らしとなる。
内陸部に入るとトナカイ
の飼育が生活の糧だ。子どももトナカイを操る。学校の
先生はセスナ機でそれ
ぞれの子どもに教材を配って回る。お母さんが先生役を
務める。

 雪の大地に住むには「ナイフとマッチ、それに釣り道具があれば、どんな状

況でも生きていける」と著者は書く。人間が生きるのに必要なのは,少しの道
具を使う知恵と知識であるという。極北の人たちがわずかの道具と知恵と知識
で豊かに暮らしていることがそのことを証明している。
最後に子どもたちの笑顔が並ぶ。日本の子どもとそっくりである。極北の人々は,
アフリカから,シベリア,稚内へと続く日本人の一つのルーツでもある。

                        2014,2刊  1,800

 

『はぐろとんぼ』(「かがくのとも」20146月号)

    吉谷昭憲さく 福音館書店

この本のフィールドは見たところ山間部の清流ではなく大きな橋桁のある都会の

川原である。「うん?どうして?」といぶかった。ハグロトンボはふつう山の清流

などで見られるからだ。本を数ページくるとその謎がとけた。この大きな川の川

原は特異な環境だった。どんな環境なのだろうか。

この本をめくるとこんな場面が出てくる。

「おや?ここは くうきが ひんやりしているぞ。/みずが とうめいで/

かわぞこの すなや でこぼこが はっきりと みえる。/てを みずに 

つけたら とても つめたい。/どうして こんなに つめたいんだろう?

 かわぞこの つちが もこもこ うごいている。/つちのなかから 

つめたくて きれいな みずが わきでているんだ。」

ハグロトンボが飛んでいたのは支流との合流地にある湧水口周辺だった。場所は

特定されていないが,こんな都会の近くで湧水があるというのは富士川ではないか

と予想したくなる。それはさておき,この本では淡いタッチの絵で話が進んでいく。

こういう環境の中で静かにハグロトンボが登場する。ハグロトンボの足にはびっしり

とした毛がついているのが特徴だ。繊細な絵でしっかりと足の毛が描かれている。

続いて交尾,産卵の場面に進む。やがて生まれた幼虫の絵も見易い。「ヤゴ」と

いう言葉はあえて使わないのだろうか。湧水口で温かい冬を過ごした幼虫は春にな

ると水中を動き回る。8月になると,水草によじ登った幼虫は脱皮を始める。成虫

になったハグロトンボは草の茂みの中でじっと時を待つ。いよいよ,親トンボになる

脱皮だ。成虫になると盛んに獲物を捉まえる。カワトンボが獲物を捕らえた瞬間…

カワトンボの毛むくじゃらの足が獲物を取り囲んでいる。獲物捕獲用にカワトンボの

足の毛は大切な器官だったのだ。

低学年用の絵本とは言え,見応えのある本である。

      2014,6刊  410円 (西村寿雄)

 

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